~僕は透明の玉座には座らない~車椅子の弾き語り<カトキチLIVE> [音楽]
3年、いや4年前だったか
ひょんなきっかけで知ることとなったブルースシンガー兼アーチストのマチ
ケンさんこと町田謙介さん率いる凸凹トリオ月1回のライブへ地元高田馬場
ライブハウスに通い始めてからしばらく経ったある日のこと。
さほど広くないライブバー、客席テーブルは2卓。
そのうちの1卓は自分の知り合いたちが数名で押し寄せるのでキープした
のだけど、そのときお店のオーナー/キャサリンママからもう1卓はこの
あとお客さんがくるから残しておいてね、と明るく注意を受けた。
そしてほどなくやってきたのは車椅子に載って現れたショートヘアで一見
ちょっとコワモテの人物だった。
その人物こそ後に知ることとなる車椅子の舞踏家カトキチさんだったのだ。
ただカトキチさんとはその後何回かライブで顔を合わせたが特にそれ以上の
関係でもなかった。
あるときのライブ、カトキチさんが帰られる際キャサリンママの号令で手を
貸したことがあった。
ここのライブバーはB1にあるのだがエレベーターがないので昇降は階段。
なので車椅子でお帰りになるカトキチさんをみんなでサポートしたのだ。
それまでは無関心だったけどこのとき一瞬だけ障がい者のハンデについて憂え
たものだ。
しかし気が付くとこの凸凹トリオのライブは月イチから年イチに頻度が落ちて
しまったのでカトキチさんと巡り合うこともなくなっていたのだが、そんな
ある日マチケンさんから実に興味深い報せを受けたのだ。
歌も演奏もトーシローだったカトキチさんがマチケンさんプロデュースのもと
2年間の特訓を重ねてこのたびCDの発売とそれを記念したライブを行うとの
こと。
車椅子での日常生活というハンデを抱えながらボーカルのみならずギターの
演奏までなさるというのだ。しかもわずか2年の歳月で。
大変失礼ながら階段の昇降でさえ人の手を借りねばならない方がどのように
してギターを奏でるのか、若かりしころたかだかFコードの押さえ方で挫折
した自分にとってはマジシャンのパフォーマンスを見るような面持ちでその日
を待った。
そして迎えた2月15日午後8時、会場の三鷹<バイユーゲート> に出かけて
ゆく。
前座にマチケンさんやカトキチさんCDのバックアーチストたちが演奏した。
いつも明るくウィットに富んだMCで人を笑わせるマチケンさんがいつもにも増し
て笑顔に溢れたMCとご機嫌な演奏を披露してくれた。
休憩をはさんでいよいよカトキチさんの出番。
はじめてのソロライブ、緊張に包まれたMCから1曲目に突入。
どんな演奏を繰り広げるのだろうと期待に胸を膨らませて見つめていたらなんと
ギターを下に置いて弾き始めた。
知恵と工夫、それに努力を重ねれば不可能なことも可能にしてしまうものなのだ。
不自由なからだでないにも拘わらずFコードごときで挫折した自分が情けない。
それから演奏ばかりでなくボーカルにも注目。
1曲目はさすがの緊張からかぎこちなかったが、2曲目からはリラックスされて
きたのがこちらの耳を通しても明らかに感じられ、とてもファンキーでソウル
フルな唄声が爆発してこっちの魂もゆさぶられる。
それにカトキチさん自らが書き下ろした詞の内容が秀逸だ!
♬僕は透明の玉座には座らない♬
僕の手のひらには 車輪をつかむあとがある
前に進むための 固く強いあとなんだ
僕の心には 殻に閉じこもってたあとがある
前に進められない 弱くつらいあとなんだ
何もできやしないと
裸の王様みたいに鎮座してた
でもできる、できないとかなんかじゃない
やりたいか、どうかさ
僕は透明の玉座には もう二度と座らない
黄金に輝く夕日に向かって進んでゆく
続く・・
本人の境遇を素直に詞におろした内容にはハンマーで後頭部をガーンと打ち
付けられたがごとき衝撃が走った。
この日披露されたのはCD化された5曲。
でもその中で上掲の『僕は透明の玉座・・』ですら比較にならないほどの強烈な
インパクトを受けたのが『身体障害者用トイレブルース』の歌詞。
これこそ実体験がなければまず思い浮かばないであろう内容であり、かつ放送
禁止に触れそうな箇所も登場する。
ダウンタウンブギウギバンド不朽の名曲ブルース『港のヨーコヨコハマヨコ
スカ』を彷彿とさせるようなセリフがかった展開。
カトキチさんの迫力満点のボーカルが実にマッチしている。
滑舌がよくて表現力に長けたカトキチさんの歌声に惹き込まれ、意図せずとも
自分の頭の中でくっきりと歌詞のひとつひとつが上映されて行ったのだ。
あまりの衝撃に1回聴いたら絶対に忘れられない曲だ。
あっという間の5曲だった。
最後に全面的プロデュースを買って出られたマチケンさんがCD制作中のエビ
デンスとして何十枚というクロッキーを描かれて当日会場で貼りだし、
来場者に無償提供されたのでお言葉に甘えて1枚戴いて帰った。
さすが美大出身の経歴を持つ描いて書ける(ジャンクジャングルキッズなる単行本
を出版している)シンガーである。
次回の公演がとても待ち遠しくなった。