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奇跡のVOICEを持つ珠玉のアーチスト小田和正の軌跡~空と風と時と~を読み終えて [本]

小田和正は今現在(=2024年2月)御年76歳を数える。

世間一般では75歳以上を指す『後期高齢者』へと突入した訳でありいわゆる名実ともに老人

なのだ。

なのに歌声はいまだ若い頃と変わらぬ、いやその頃よりもさらに磨きがかかった純粋無垢の

ハイトーンクリスタルボイスである。

私は小田和正について特別に入れ込んでいるわけではない、事実コンサートには一度も足を

運んだことが無い。

しかし40年以上にわたってコンスタントに魅力的な楽曲を創り出す才能に敬服する一方、彼

の辿ってきた(紆余曲折の)道のりについては野次馬根性も働いて非常に関心を抱いていたの

で、この新刊本が発刊されることを知った瞬間に予約を入れて出版日に入手した。



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読み始めてから2か月以上かかって先日読み終えたが、これは内容が期待したほどでなか

ったということではなく普段読書に接していないので読むスピードが遅いことと、本作

品が600ページ超に及ぶ超大作だったこと、それに通勤時に限定して読むこととした

ので朝の連続テレビ小説よろしく毎日その先がどういう展開になるのかをワクワクしな

がら読み進めていったなどの事情が重なりかなりの時間を要してしまった訳である。


さて拙ブログを訪問くださる方々はみなさん人生経験が豊富な方たちばかり、とお見受け

するので小田和正のプロフィールを解説するということは野暮だと思うのだが、一応簡潔

に触れておこうと思う。

小田は1947年生まれ、横浜市の出身で実家は薬局を営んでいた。

中学・高校と進学校の私立聖光学院に通いそこで後に「(ジ)オフコース」としてコンビを

組むこととなる鈴木康博と出会って演奏活動をスタート。

二人のハイトーンボイスのハーモニーが紡ぐ作品は当時としても出色だったが曲調が地味

だったこともありしばらくは全く売れない下積み時代が続く。

しかし当時のプロデューサーの手腕により清水仁・大間ジロー・松尾一彦というロック色

の強い3人を加えたことにより5人編成でビートを効かせた曲を次々と発表するようになっ

て大ブレイクを果たし絶頂期を迎える。

だがほどなくして結成当初から活動を共にしてきた鈴木が脱退、その直後1年ほどの休止期

間を経て4人編成で再スタート。

ところがその活動も5年ほどで解散となってしまい、以後小田はソロで音楽活動を30年以上

続け現在に至る。


 先にも触れたが私は小田和正というひとりのアーチストに特段着目していた訳ではないの

で文中再三にわたり登場する〔クリスマスの約束〕なる音楽イベントすら知らなかった。

これは現在進行形で活躍しているアーチストたちを一堂に会してリレー形式で歌いつなぎ、

最後は全員でクリスマスソングを合唱する、という小田が企画・提案そして実現に持ち込ん

だ音楽イベントだそうである。

今から20年以上も前に行われたこのイベントを皮切りに毎年クリスマス時期に催されている

そうだ。(直近2年間は開催されてないようだが)

かつてアメリカで〔ウィ・アー・ザ・ワールド〕が当時超一流アーチストたちによって唄わ

れたがその日本版のようなものか。


 小田は進学校で中高一貫の聖光学院から現役で東北大の建築学科に進みそこから更に早稲

田大学の大学院で建築学を学びつつ当時すでに演奏活動に携わっていたにも拘らず大学院を

中退せずにキッチリと卒業しているいわば高学歴芸能人のさきがけだ。

勝手ながら小田の人物像について秀才かつ完璧主義で自分の創り上げたものに対して絶大な

自信を誇るが人とのコミュニケーションを得意とせず自分中心に少数の気の合った仲間との

み物事を仕上げていくようなタイプか、と思っていた。

事実小田に接した音楽関係者は口々に無口な人とかとっつきにくいなどの感想を漏らしてい

る。

しかし実際の小田は人との付き合いを大切にし、相手をリスペクトする姿勢を有する至って

懐の深い人物であるということをこの書物では説いている。

「オレがオレが」の目立ちたがり屋でなければ生き残るのが難しいとされる言わば生き馬の

目を抜くのが当たり前な芸能界では貴重な存在であろうということだ。

また吉田拓郎と交流することとなったいきさつについても触れられていて、どちらもアクが

強いだけに気が合うとお互いが厚い信頼と固い絆で結ばれている様が読み取れてとても微笑

ましく感じられた。


ところで私は筆者の追分日出子氏についてまったく存じていなかったのだが昭和史全記録な

どの時代を編集する企画の編集取材に携わるいわゆるドキュメンタリー作家なのだそうだ。

小田について細部に渡ってのあらゆる情報があきれるほどもりだくさんに登場してくる情況

から、浅はかな私はきっと筋金入りの小田ファンなのだろうと想像したのだが、それは作品

のあとがきを読んでまったく見当違いであったことを知り改めてドキュメント作家の手腕に

脱帽してしまった。

そんな小田の細部にわたる情報の中で私がもっとも心に刺さったのは、彼は少年時代におい

ては腕白でいたずら好き、そしてスポーツ少年だったという事実。

聖光学院中学では野球部に入部かつ最上級生3年次では何とキャプテンに任命されている。

今では少年が憧れるスポーツはサッカーにその地位を譲ってしまった感が強い野球だが、昭

和の時代はダントツで野球だった。

なのでスポーツを得意としていた男子(これも今となってはきわめて昭和チックな表現だが)

はこぞって野球を選択していた時代だ。

思春期でスポーツに長けていた者たちの集団たる野球部に在籍してキャプテンを張るほどの

実績を持っていたことと名門大学の理系を渡り歩き修士号まで取得した上で極上のヴォーカ

ルを演ずるというギャップ萌えに私はやられてしまった。


 ということで当初は小田がミュージシャンとして60年に渡り活躍する間に2人→5人→4人

→1人と変遷していった事実とかエピソード等を知りたいがために読み始めた本作品ではあ

ったがその理由は今まで伝えられてきた内容と概ね一致していたのであえてここでは解説す

ることは控え私自身が驚きを以って得た上記内容について触れたことで締めとさせて戴く。



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井上尚弥モンスター伝説【怪物に出会った日】を読んで [本]

読んでいて幾度となく体の中を電流が流れた。


 ◇新刊本:怪物に出会った日~井上尚弥と闘うということ

 ◇著 者:森合 正範


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この書物を読み終えた直後の率直な心持ちである。

筆者は東京新聞運動部記者なのですなわちスポーツ記事を書くことを生業としている。

そして筋金入りのボクシング愛好家だ。

そんな筆者は井上尚弥の相手を仕留める闘いぶりが圧倒的すぎる余り、表現がいかにも

薄っぺらくなってしまいその本当の強さを一般大衆に伝え切れていないのではないかと

いうジレンマに苛まれていた。

そんなときボクシングにあまり明るくない記者仲間のひと言が腹にストンと落ちた。

それは井上と対戦して敗者となってしまった相手を取材してみてはどうかということ。

割と当たり前すぎる受け答えだったが筆者にとってはその着眼点は盲点だったためこれ

は行けるのではないかと直感したが、しかし同時にそれは極めて困難な作業であること

も理解していた。

なぜなら筆者は学生時代から後楽園ホールでアルバイトをしてきてボクシングの試合の

舞台裏にも携わってきた。

勝者のグローブより敗者のグローブの方が重く感じたり、負けた選手の嗚咽が耳に残っ

ていたり・・という敗者のつらい現実を体感してきていた。

選手にとって敗北がいかに精神的な負担が重たいかを目の当たりにしてきたのである、

まして取材する相手はプライド高き元世界チャンピオンたちであり、深く傷ついたであ

ろう敗戦の思い出を一介の新聞記者ごときに素直に語ってくれるるのだろうか・・

それでも筆者にとっては井上がいかに普通の勝ち方ではないことを、一般大衆へ正確に

伝えるためにはこの手法がベストであるという信念のもと勇気をもってそれを実行して

ゆく。


インタビューは海外の元チャンピオン3人を含む外国人選手6名。日本人選手4名それに

海外チャンピオンの息子1名の計11名に対して行われている。

いずれも敗者の口から衝撃的な状況が生々しく語られているのだが、私がもっともその

衝撃を強く感じたのはオマール・ナルバエス(アルゼンチン)の証言。

「ブロックしようとしたら思った軌道と違っていた。パンチが外側から来ると思ったら

角度が変わってガードの内側に入ってきた。フックの軌道がストレートに変わったよう

な・・」

ナルバエスはアルゼンチンボクシング界の超英雄であり12年間に渡りチャンピオンベル

トを維持、18年のキャリアにおいてKO負けはおろかダウンの経験すら無いほどにディ

フェンススキルの高い選手が吐露した言葉である。

かたやこのとき井上は弱冠21歳、戦績は7戦7勝とプロの試合は10戦にも到達してい

なかった時期、かつ井上にとってはライトフライ級からスーパーフライ級へといきなり

2階級もあげての世界タイトル挑戦だったことを考えるとどれほどまでに井上のパンチ

が離れ業であるかを端的に物語っている証左だ。

このような敗者のリアルな証言が満載なのだが、この書籍全体から浮かび上がる井上の

最大の凄さとはいったい何かを考えた時、それは「謙虚さ」ではないだろうか。

通常のチャンピオンの場合世界タイルマッチの直前は極めてナーバスとなるため、イン

タビューでは口数が少なくなるが、井上の場合対戦相手がビッグであればあるほど饒舌

になり逆に相手が大した実績を有していない選手の場合は口数が少ないそうである。

ボクシングチャンピオンは2種類の考え方を持つと言われて来ている。

ひとつはとにかく金を稼ぐために強くもない相手を選んで防衛を繰り返すタイプと、も

うひとつは常に強い相手を選んで自分自身の実力を測り試合で勝利して、次の試合へ精

進を重ねる。

井上はまぎれもなく後者のタイプだ。

だから井上は実力の低い相手と闘うときはモチベーション維持のため口数が少なくなり

実力者との対戦前は本人自身がワクワクしているために多くを語ってくれる、と筆者は

分析している。

格闘技系スポーツでは対戦前に舌戦がしばしば繰り広げられる。

相手を口汚くこき下ろし自分の凄さをアピールするアレだ。

かつて「ビッグマウス」と揶揄されたボクシング界のレジェンド<モハメド・アリ>の

名残りかも知れない。

いっぽう井上は対戦相手を試合前後通じて常にリスペクトする姿勢を崩さない。

相手をけなすような言動はもちろん一切行わないしさりとて自分自身を誇示することも

まったくしない、きわめて紳士的な態度に終始しているのである。

唐突だが米国大リーグで先日2回目のMVPを獲得した大谷翔平の最も優れた点を挙げ

るなら私としては恐ろしいまでの謙虚さを真っ先に指摘させて戴くが、同時期に日本が

生んだこの2大ビッグスターに共通するところだと強く感じるし、また日本人として誇

りに思ってしまう。


さて最後に私の願望を記して締めることとしたい。

井上尚弥が現在の地位を築き上げる以前に山中慎介という王者がWBCバンタム級王座

を12度防衛する活躍を見せていた。いわば井上以前の日本が誇るボクシング界スーパ

ースターである。

しかし具志堅用高の13度防衛の日本記録直前でルイス・ネリに敗れたわけだがネリは

後日ドーピングで陽性反応がなされたと報道されるに至った。

ところがメキシコ出身者であるネリはWBCという組織自体がメキシコに本部を置いて

いることから自国選手へ不利に働く裁定はなされずチャンピオンベルトははく奪されな

かった。

その後山中はネリに再戦を挑んだものの今度はその重要なマッチでネリがなんと体重オ

ーバーを犯したのである。

山中は試合を拒むことも出来たが続行するも結局2RにTKO負けを喫して引退を余儀

なくされた。2018年3月のことである。

現在ネリはスーパーバンタム級に階級を上げなおも暗躍しているので井上と土俵が同じ

なのだ。

そこでこの悪童を井上のパンチでマットに沈めてもらい山中に見せた蛮行の仇を取って

ほしいと願うのである。






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<巻上公一>【濃厚な虹を跨ぐ】発刊記念講演を聞いて [本]

巻上公一氏は結成45年を数える音楽バンド〔ヒカシュー〕のリーダーである。

氏はもちろんあまたに存在するミュージシャンのひとりだが、演劇やらホーミー(喉歌)

やらその多才ぶりには舌を巻くものがある。

そんな氏が先日2冊目の詩集を発刊した。


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ヒカシューが発表する曲のほとんどは巻上氏の作詞作曲によるものだが、この詩集は18枚

に及ぶアルバム作品に収められている歌詞などから選んで出版した力作である。

ちなみに4年前に刊行した1作目【至高の妄想】は詩人の大岡信賞を受賞しているまさに

至高の作品だ。


40年以上に渡って氏の音楽を追いかけてきたのみならず一挙手一投足を着目してきた私と

してはもちろん本作品をいの一番で購入したのだが同時に発刊を記念して講演を行うという

情報を入手したのでこれは聞き逃すことは出来ぬと思い本日その講演を聞きに行ってきた次

第である。


会場は現在再開発が顕著な渋谷の南エリアにこじんまりとたたずむ小さなバー。

初めて訪れたそのバーは楽器が置かれていてたまにライブを行うようだが、何とも妖艶さが

漂うまさに巻上氏が講演するにはぴったりの箱のように感じた。



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(講演直前のショット、巻上氏とゲストであり「無印良品」ブランドを立ち上げたことで

 著名な小池一子氏および歌人の石井辰彦氏が座る予定の椅子)

アップライトピアノや蛇味線がいつでも活躍できるように、とスタンバイしている。



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(トークライブまっただなかの巻上氏(最右側)と隣で聞き入るクリエイテイブ・ディレ

 クターにしてレジェンドの小池一子氏とその隣は歌人の石井辰彦氏)

石井氏は歌人の立場から巻上氏の作品を几帳面で整然としていることに感心したと評した

のに対して小池氏は敬愛を込めて真っ向から否定していたのが微笑ましかった。



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巻上氏みずから作品を情感込めて読み上げてくれた。


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巻上氏の得意技のひとつ、口琴を披露。


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尺八をも演奏、しかし吹き終わったあとにこの楽器がプラスチック製であるとの一言

には思わず絶句してしまった。


          ◇          ◇          ◇


このようにトークライブから途中の休憩をはさんで詩の朗読、楽器の演奏、さらには

十八番(おはこ)である「ホーミー(喉歌)」まで披露というもりだくさんの2時間

強であった。

トークライブで触れられていた本詩集のエピソードをひとつ。

当初この詩集のタイトルは本作品中トップバッターを飾っている「キリンという名の

カフェ」となる予定だったものが巻上氏本人の意見でそれではおしゃれ感が漂うので

氏のポリシーに合わず回避となったそうである。

そして驚いたのがこの曲のコード進行。

単純に同じコード進行を繰り返すだけの平凡な構成なのだがそのコードがc-a-f-eなん

だそうだ。

巻上氏の(歌)詞には(ダ)ジャレがしばしば引用されていたり心地よい韻を踏んで

いる部分がよく見受けられるが、歌詞や曲のタイトルとコード進行が繋がっていると

知り改めて氏の機知に富んだ才能に敬意を表してしまった・・・


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講演は19時スタートとちょうどディナータイムだったため手作り弁当が用意されていた。

写真は詩集の宣伝チラシをかぶせた紙製の弁当箱であり冊子にあらず。


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中身はこのように年配者好みのライトでヘルシーなメニューであり、もちろん言うまで

もなく美味であったことを伝えて今回の素敵な記念講演レポートの結びとさせて戴く。


(2023年5月24日追記)

講演の中でさらに大変興味深い話題を取り上げていたのでそれについても追記しておく。


〔濃厚な虹を跨ぐ〕冊子の表紙には呪文のような文字が列記されている。


          らいろらいろらいろらいろら


これがタイトルとして選ばれた作品の詩であり同曲の歌詞でもある。

巻上氏の曲にはこのようにナゾの歌詞を伴った作品が散見されるのだ。

そしてこのような正体不明の言葉のことを「ジブリッシュ」と称するそうだ。

氏は英語の「イングリッシュ」に対してちんぷんかんぷん言葉としての「ジブリッシュ」

という言語の対比を例示して初めて聞く人が理解し易いように解説してくれた。

私も初めてこの単語を知ったわけだったが、これは世界共通のひとつの「文化」として

ワールドワイドに存在しているそうで、かつきのうきょう生まれたものではなく歴史深く

日本よりもむしろ欧米の方が盛んであるそうだ。

巻上氏においても海外講演でジブリッシュを披露すると一目を置かれるらしく、コロナ禍

で世界各国のジブリッシュの名士たちとリモートジブリッシュ会談を行ったそうだ。

本日の講演でも数分間に及ぶジブリッシュを披露してくれ拍手喝采となったことを追加

報告としたい。

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【ラグビー】あの栄光のワールドカップ2019の舞台裏〘おっさんの掟〙小学館新書 [本]

2022年2月1日発売 〘おっさんの掟〙〈谷口真由美著/ 小学館新書発行〉を読みました。

副題が“”「大阪のおばちゃん」が見た日本ラグビー協会「失敗の本質」”とありますので

かなり刺激的でそそられます。


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国内では先月新たなラグビーリーグ〔リーグワン〕がスタートしたばかりであり、そん

な注目かつ重要な時期に、ともすれば水を差すような書物を出版するのが  一時とは言え

日本ラグビー協会に身を置いた人物であることに違和感を抱きつつもやはり内情は知って

おきたかったので怖いもの見たさ的感覚で、人から教えられたその日に即買い、即読みし

ました。

ラグビーといえば「にわかファン」という単語が流行語になったのも振り返ればコロナ禍

前の2019年、この年は史上初めてアジアで行われたワールドカップ日本大会で予想を大

きく上回る日本の信じられないような活躍で大盛り上がりとなったのでした。

いっぽう国内でのラグビー競技は<トップリーグ>というプロアマ混在の選手からなるリ

ーグ戦が2003年から開催されてきました。

プロやアマの選手が混在するのは当事者たちにとっては人生設計の上でとても合理的な

制度である反面世界のラグビーから見れば長年弱小チームであった日本がラグビーワール

ドカップで好成績を持続してゆくためにはやはりサッカーのプロ化を見習って完全なプロ

リーグの発足が必須との考えから、生みの苦しみを経てスタートとなったのが〔リーグワ

ン〕と言えるでしょう。(なおここでの詳細な説明は割愛しますがリーグワンにおいても完

全プロ化による選手制度には至っておりません)


   しかしスタートにこぎつけるまでに紆余曲折があったのです。

おおまかに経過をたどると

まず日本ラグビーに長く君臨してきた森喜朗元名誉会長が2019年に突然自ら辞任を告げ

後任として早稲田大学の後輩であり、母校やトップリーグ〈サントリー〉及び〈ヤマハ〉

の監督として優勝を遂げるなどの実績を有した清宮克幸氏を引っ張り込んでからプロ化

の動きが急展開します。

その清宮氏が引き込んだのが本書の著者<谷口真由美氏>でした。

氏は人権問題に造詣が深くその方面における法学者としての大学の(准)教授という職につ

きながらも某人気テレビ番組のコメンテーターをもこなす人気と実力を兼ね備えた人物です。

しかしラグビー新リーグ発足に肝いりで引っ張られた清宮氏がややもすると突如そのメン

バーから外され、替わりに上記の谷口氏が新リーグの設立準備委員長に任命されます。

それから新プロリーグスタートが2022年1月と決定したおよそ半年前の2021年7月、新

プロリーグの1部、2部、3部グループに所属するチーム発表がなされたときに事件が世間

に表面化したのです。

すなわち設立準備委員会が進めて決定づけたグループ分けに対して森重隆現ラグビー協会

会長自らが手直ししてその結果1部と2部のチームを入れ替えた、と発表したのです。

当時のマスコミではそれがどこのチームであるかは表沙汰されなかったのですが、私は有

力筋からトヨタと近鉄を入れ替えたのだとの情報を入手し、そのときはたいそう驚愕した

ものでした。

そしてこの本のもっとも関心が高まる部分であるその事実もまさにその通りのことが実名

で書かれていました。

谷口氏は本書の中で「清宮にいさん」と親しみを込めて記しています。それは他でもなく

谷口氏が清宮氏のことを強引さが気がかりだが強力なリーダーシップで物事を進める姿に

尊敬の念を抱いていたからです。

そんな強引に進める清宮氏の仕事ぶりを谷口氏自身がもっと相手とのコミュニケーション

をとるようにたしなめる発言も登場しています。

しかしながら谷口氏がトップとなり新リーグのグルーピング作業に取り掛かったところの

集計で2部がトヨタで1部に近鉄という結果が出たときにはコミュニケーションをとらず

強引に進めています。

トヨタといえば人気、実力とも申し分のないチームです。対して近鉄はその両者において

トヨタに見劣りするのみならず実は谷口氏の実父は近鉄ラグビー部の出身で谷口氏自身も

幼少のころは同チームの合宿所で育ったという経歴の持ち主なのです。

こんな背景を抱えて仮に集計結果が上記のようなことになったとしたらコモンセンスなら

最終責任者たる森重隆会長の耳に入れるとか、少なくともいわゆる情報提供を行いながら

変な意味ではない「根回し」を行うところでしょうが、それをせず妙な部分で法学者とし

ての矜持がそのような行動に至らせまいとしたのか自分の出した結果を押し通そうとした

のだから紛糾するのは火を見るよりも明らかなことでしょう。

そういう本人のマネジメントスキルの欠如についてはいっさい触れることなく、ただ単に

ラグビー協会の罵詈雑言(であると私には感じました)を並べて、ただしそれが森喜朗氏の

女性蔑視に見られる時代の潮流に乗った問題をラグビー協会の体質と評価してのすり替え

として結んでいる本書に対して少なくとも本人にはラグビー愛がおよそ感じられないのが

とても残念でした。



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1964 前の東京オリンピックのころを回想してみた<泉麻人>新刊本 [本]

NHK大河ドラマ『いだてん』は1964東京オリンピックを迎えたストーリーにて最

終回となり先達て幕を閉じました。

その最終回はドキュメントの映像も含まれており、当時5歳児だったワタシの記憶の

片隅に残っているシーンがたびたび登場したので、とても懐かしさを感じて見入って

しまいました。

そして来年はいよいよ56年ぶりに東京でオリンピックが開催されます。

11月2日にラグビーワールドカップが終了しましたが、ワンチームとして大活躍

した日本がオリンピックで再び好成績を収められるかこれからますます注目度が

増してゆくことでしょう。

そんな中、サブカルチャーに造詣の深いコラムニスト・泉麻人氏がワールドカップ

終了直後かつ『いだてん』の最終回が放映される前であり、そして翌年が東京オリン

ピック開催という絶妙のタイミングとなる12月5日に新刊本≪1964 前の東京

オリンピックのころを回想してみた≫を発刊しました。


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≪著者:泉 麻人   発行所:株式会社  三賢社≫


さらには発刊に際して氏の講演会が高田馬場・芳林堂書店にて行われるという情報

を入手したのでもちろん参加してきました。


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講演はご覧のようにパネルでお宝写真を紹介されながら本のメインテーマである
1964年前後の大衆文化について解説を繰り広げる、と言う内容です。
氏が1956年生ゆえ東京オリンピック開催時は小学2年生というわけですが、
相変わらずよくもそこまでこまごましたことを覚えておられるなあ、とつくづく
感心しましたね、しかも小学2年でありながらその観察眼はすでにサブカルに長けて
いたという点が驚異的だと思うのです。
いくつか紹介すると、
たとえば<アメリカシロヒトリ>という蛾の流行について(P156~)
最近あまり耳にしなくなった<アメリカシロヒトリ>ですが、あのころ桜の木に寄生
する害虫ということでかなり衝撃的に話題とされていたので未就学の幼児だったワタ
シですら認識しておりました。
オリンピックのために海外から訪れる観光客対策なのでしょうかね、東京の街中で
害虫駆除のためリヤカーのような車両に薬品を散布する機械を積んで公園など樹木が
生えている場所を作業員が巡り、甲高いモーター音をうならせながら白い煙を噴き出
して薬をまき散らす光景がついこの間の出来事のように思い起こされたのです。
平成生まれのボクやアタシには都心でそんな作業をしていたとは想像すら及ばない
ことでしょうねえ。
実は泉氏が当時住まわれていた家が新宿区でありワタシの実家の至近距離なのです。
ですから氏が本の中で説明している描写がそのままワタシの脳裏に映像として復活
したようなものでした。
ガキの頃から放浪癖があったワタシはその散布車がどこへ向かうのだろうかと好奇心
の固まりとなってくっついて行った記憶が鮮明に残っているもので。
   それから「放射能の雨にあたると頭がハゲる」という噂(P213~)
記憶が蘇りました、道路に油がしみ込んで部分的に不気味に青く輝いてる水たまりを
発見して「あ、放射能の雨だ!」と大騒ぎしたものです。
しかしこれ、ワタシ自身の年表だと小学校1年のころだったかと記憶しているので
泉氏から遅れること2年ですね。
ちなみにその根拠が東京オリンピック開催中の中国における核実験から来ていたのだ、
とは本書で初めて知り非常に感慨深いものがあります。
また、この言い伝えは東京の新宿区地域だけなのかそれとも関東エリア、もしくは
全国的に語られていたものなのか俄然興味が湧いてきたのでそのあたりの状況をぜひ
とも調査したくなりました。(全国のブロガーのみなさん、情報をお寄せください)
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さて泉氏が広げているのは五輪のマークと日の丸を象った風呂敷。
当時通われていた『落合第一小学校』体育館の倉庫の隅に仕舞われていたもの
をオリンピック何年後かの大掃除で発見されたときに譲り受けたとか・・
物持ちの良さには舌を巻いてしまいました。
講演後には(恒例の)サイン会を設けてくださいましたので講演直前に購入した
新刊本にサインを戴いたのは言うまでもありません、ミーハーですからw
ついでに前回購入の<僕とニュー・ミュージックの時代>も持参してたのでそちら
にもサインをおねだりしたら快く応じてくれました。ありがとうございました。
  それにしても街の本屋さんが激減する中、芳林堂はこういった著者の講演を
積極的に企画・実演されいてる取組には実に感心します。
僭越にもㇷと閃いたのですがワタシが今春やはりここ芳林堂ホールでの講演に
参加したマニアック作家<本橋信宏>氏とサブカルチャーを題材とした同学年
早慶(お二方とも1956年生れで本橋氏の出身がワセダ、泉氏がKOです)対決
をここ芳林堂ホールで実演していただけないか、などと妄想を抱いております。
さらに閃いたのが彼らの一学年下ですがやはり地元高田馬場出身で東大卒のサブ
カルチャニスト・森永卓郎氏にジャッジを仰いでもらうという企画、
いかがでしょう。

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『【新刊本】高田馬場アンダーグラウンド』著者のトークショーに参加しました [本]

手塚治虫、江戸川乱歩、「神田川」(かぐや姫)からビニ本、自販機本、ブルセラ

フードルまで"伝説"はこの街で生まれた。


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著者:本橋  信宏(もとはし のぶひろ)

発行所:駒草出版

2019年3月16日  第1刷発行


高田馬場のエピソード満載の新刊本が発刊されました。


ソネブロアカデミック部門(ってのはありませんがw)NO1ブログの落合道人

さんからご紹介いただいたので、すかさず職場近くや通勤途中の書店に買い

求めるもいずれも店頭には陳列されておりませんでした。

なのでお膝元高田馬場老舗書店<芳林堂>を訪ねたところさすが地元、どっさり

と何十冊も山積み状態で置かれていましたね。

でレジで会計を済ませたとき店員さんに「著者の講演会がありますが・・」と

声をかけられ日時を聞いたら4月12日(金)19時スタートで場所は同書店ビルの

最上階との回答。

なんとワタシの業務終了時間を勘案してくれたかのようなスケジュールに、これ

はもう参加せねばバチが当たると感じたのでその場で申し込みましたよ。


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著者は<本橋信宏>氏。1956年生のアラ還、都の西北大学出身かつ職場も
住居も高田馬場(界隈)ということで本書を書き下ろされる環境においてこれ
以上の条件はないというほどのツボだと思います。
本書出版の前に『アンダーグラウンド』シリーズとしてすでに『上野アンダー
グランド』や『新橋アンダーグラウンド』を上梓され好評を博して来られた
矢先、満を持しての本書発表と言えるのではないかと感じます。
普段読書習慣のないワタシですが期待通り大変興味深い内容でしたので一気に
読み上げてトークショーに臨んだわけです。

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ほぼ定刻でご本人登場。

なんかとても清潔感漂うジェントルマンなスタイルなのが意外でした。

『高田馬場』と『アンダーグラウンド』というキーワードを取り上げた

『文筆家』とくればボサボサヘアの奇人、肯定的に表現するならば

(風変わりな)芸術家を勝手に想定していたからです。

そしてトークのほうはスライドを交えてのものでした。

オープニングの話題は<(世界の)ビートたけし>

本の中でも登場しますが本日講演が行われているこの芳林堂ビルの会場で

まだ夜明け前の<ツービート>が毒舌漫才を披露していたとのこと。

時は1978年11月30日

それから神田川のスライドが現れ、それが川の中心部の島状の写真なの

ですが、『上総(かずさ)層』と言うそうです。

普通の地形では関東ローム層の下部を形成しているがこのように露出して

いるのは珍しい、と愛着のある神田川の解説でしたが、これは本の中では

取り上げられていない、なんかブラタモリを彷彿させる一面でありました。

それから1971年3月30日発行『少年マガジン』表紙のスライド、これも

本では取り上げていないエピソードです。

手塚治虫をはじめとした当時人気漫画家を一堂に会しての集合写真です。

最前列は手塚を真ん中に左が水木しげる、右が横山光輝

手塚先生と水木先生は犬猿の仲、とオフレコチックな話題。

ちなみに手塚先生は大変腰が低い、一方で嫉妬深かった・・とも。

また集合写真の片隅に当時はブレイク前の楳図かずおが新人同様の扱いで

写っていたとも。


本の中でも詳しく取り上げられている『神田川』(かぐや姫)のエピソードは

当然満載でしたが、作詞者:喜多條忠が実際に同棲していた3畳一間のアパート

近辺の神田川沿いの柵に赤いリボンを付けて目印にしたスライドも披露して

くれたのでそのうち訪れてみようと思います。

もちろんこのスライドもトークショー用で本には登場しません。

それから日本の推理作家パイオニア<江戸川乱歩>についても情報にあふれて

いましたが、本の中でも語られている乱歩のサイドビジネス。

下宿屋経営をしていたそうです。

その跡地は現在介護施設として浮世の変化を受け止め活躍されているそうです。

アンダーグラウンドと呼ぶに相応しい下ネタ系エピソードも枚挙にいとまなく

語られていました。伝説の風俗店<マダムマキ>のお客には超有名人が多数。

角界の著名人の固有名詞を挙げられてビックリ、もちろんオフレコ。


もうひとつのびっくりは人気女優殺人事件のこと。

<菊容子>という女優、ワタシは憶えておりません。

が著者によれば1970年代前半に活躍された若手女優だそうです。

その彼女が1975年4月29日未明住まいとしていた高田馬場のマンションの一室

で交際中の男に絞殺されたその場所をスライド示してくれたのですが、なんと

ワタシの知人が住んでるすぐそばなのです。

実際先日その場所を確かめてみてきました。

(この事実を知人は知っているのだろうか・・・)


と、そんなこんなで予定の1時間をあっという間に20分ほど超過してスピーチ

はお開きとなりそのあとはサイン会です。

ミーハーなワタシとしては行列に並んで本にサインを戴きながらお話もさせて

もらったので大変光栄なひと時でした。


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本橋先生ありがとうございました。今後も注目してゆきたいです。


末筆ですが、本書は文字通り高田馬場エリアにまつわるアングラな

エピソードを著したものに他なりませんが、と同時に著者の自叙伝

あるいはファミリーヒストリーであると強く感じその部分に感銘を

受けました。

特に結びのエピソードが最も印象に残りとてもドラマチックな展開

をみせたトークショーだと思いました。

残念ながら個人情報に係るので詳しくは書けませんが・・・





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日大アメフト部元監督・コーチに読んでもらいたい《闘争の倫理ー大西鐡之祐・著》 [本]

とても痛ましいニュースです。

日大アメフト部選手が関学大選手に引き起こしたレイト・ヒット。

けがをされた関学大の選手には心よりお見舞いを申し上げますが、反則を犯した

日大選手の単独記者会見は痛々しくて見るに堪えなかったです。


私はアメフトについてはあまり詳しくないので語る資格などありませんが、同じ

フットボールとしてラグビーウォッチャーの立場から声を大にして申し上げたい

のは陳腐と言われるかもしれませんが「(ラグビー)フットボールは紳士のスポーツ」

なのです。

今回の出来事によりラグビーを含めフットボールが獰猛で危険なスポーツと印象付け

られてしまうのではないかと大変危惧しています。

そこでぜひとも紹介したい書籍があります。

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闘争の倫理 ~スポーツの本源を問う:大西鐡之祐  鉄筆文庫


《・・スポーツのような闘争の場面で何かアンフェアな行動する前に「ちょっと待てよ」

  とブレーキをかけることのできるような人間にする、そういう教育が重要ではないか

  と考えるのである。私がスポーツにおける闘争を教育上一番重要視するのは、例えば

  ラグビーで今この敵の頭を蹴っていったならば勝てるというような場合、ちょっと待て

  それはきたないことだ、と二律背反の心の葛藤を自分でコントロールできること、これ

  がスポーツの最高の教育的価値ではないかと考えるからである。こうした闘争における

  心の葛藤をコントロールする訓練の積み重ねによって、こういうことを行ってはいけ

  ないとか、行ってもよいという、判断によらないで、パッとその時瞬間に正しく行為

  出来ることが重要ではないか、と考える。・・判断によらない判断以前の修練から

  くる正しい行動。判断する材料とか、判断することを教えることはできるが、判断した

  通りに行うということは、その場面、場面をあたえられた人間にしかできないのでは

  ないか。だから人間が人間を教育する場合に一番肝腎なことは、双方の間に絶対的な

  愛情と信頼があり、その時正しいと思うことを、死を賭しても断固として実行できる

  意志と習性をつくり上げることだと言うことができよう》(P39~40)


《いかに科学的合理的に戦法や技術を組織づけても、それを行うプレイヤー達は生きた

  人間であり、血が通っているのだということを忘れてはならないのです。最も重要な

  ことは彼達の人間関係であり、チームワークであるということです。と同時に人間その

  ものが持っている情緒的な事柄の解決をどうするかという問題があります。どうも人間

 というものはそういう合理的な行動だけでは解決のできないものをたくさん持っている。

  ましてや勝敗の場ではもっと重要なことがある。要するにそういう場で人間は非合理的

  情緒的な行動を持っているということを初めて知るわけです。・・・われわれの非合理

  的な行動のなかで、愛情の問題、危険とか生死とかについての問題、闘争に関する問題

  緊急事態の時の問題などはどうしてもコントロールしにくいものです。しかもそういう

  問題をわれわれは実際の社会のなかで合理的なものでは解決できない人間の本質の問題

  として絶えず抱えているのです。それをコントロールしていく方法をわれわれは一つず

  つゲームという経験を通じてスポーツから学ぶことが出来る。人間の持っている合理的

  な行動と非合理的な行動という、二つのものをコントロールしていく力を育てるものが

  スポーツのなかにある。》(P279~281)


《フェアが起る場合はですね、あるプレイ中に何らかの問題が起るわけですね。その時

  それに見合う行動は、一つは良い行動であり、一つは悪い行動だと思うのですよ。その

  時その人が考えることは。そういう時に、そういう悪い行動をしたら勝てるかも知れな

  いという行動と。いや、そんなことまでして勝つ必要はない、という自分の正しい判断

  と、それがここで葛藤する。そしてその時に愛情が湧くということは、その選択の根本

  的なものは愛情だということではないでしょうか。その選択のどっちを選ぶか、二律

  背反のどちらかを選ぶということは愛情だと。従ってフェアプレイの根本には愛情が

  ある。ということになりますね。》(P593~594)


以上すべて本書の一部を抜粋したものです。


著者の大西鐡之祐(1916-1995)はラグビー日本代表元監督、早稲田大学元教授の経歴を

有した人物ですが個人的には崇高な哲学者だと感じます。

氏が他のスポーツ指導者や学者との決定的な相違は生死がかかった戦争体験に裏打ちされ

ている点です。

太平洋戦争においてスマトラで捕虜となり九死に一生を得て帰還した体験から闘争の倫理

を育んで世界から戦争を排除する、というのが本書の主眼です。

因みに氏が監督として指揮をした試合における功績は枚挙にいとまがありませんが1968

年の対オールブラックスジュニア戦勝利(23-19)や1971年のイングランド戦の惜敗

(3-6、19-27)などの名勝負を繰り広げたことからマスコミでは「大西魔術」と評されま

した。

伝説のラグビードラマ「スクールウォーズ」で登場の<大北達之助>のモデルになった

人物といえばピンとくる方もいるのではないでしょうか・・


さて今回の日大元監督・コーチの行動や態度は痛烈な世間の批判を浴びてしまいました

が、是非本書を熟読されて心を入れ替え一から出直して戴きたいものです。

また反則を犯し退場処分となってしまった選手は会見で「もうアメフトは続けません」と

発言されておりましたが、やはり一度本書を読まれて「フェアプレイ」について自ら学ば

れ心機一転カムバックされることを期待します。



(5月30日 追記)こんなコラム記事も出されていますね。→https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180529-00010000-rugbyrp-spo



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【読書週間】最近読んだおススメ本 Ⅱ《僕とニュー・ミュージックの時代 青春のJ盤アワー/泉麻人》 [本]

タイトルの本について書こうとしたのですが、その前に先日紫綬褒章を受賞された

伊集院静さんの作品を取り上げた方が話題としては旬なので割り込みします。

さてその作品とは数年前の出版なのでとうに旬を過ぎていますが、前回紹介した

「邂逅の森」に勝るとも劣らぬほどにワタシの魂を揺さぶった自伝的小説です。

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      《お父やんとオジさん》  著者:伊集院静

内容は朝鮮戦争真っ只中の韓国が主な舞台で主人公の父が幼くして戦禍に置き去り

にされている義弟を身の危険も顧みず乗り込んで助け出す、というもの。

と言った風に記載すると無味乾燥な表現となってしまい作品に対して申し訳ないです。

作品のテーマは「家族愛」ですが、戦時下の生々しい表現はまるで本の中から弾丸が

飛び出してきそうな迫力に襲われ思わず頭を隠してしまうほどの壮絶さです。

戦争が如何に残酷で愚かな営みであるか、読み進めてゆけば誰でも感じ取ることが

でき、そこからは自然体で「反戦」を意識することになるのではないでしょうか。

伊集院静氏については個人的に大ファンだった故夏目雅子さんの配偶者だったと

同時に、現在は篠ひろ子さんの配偶者である、という程度の情報しか持ち合わせて

いなかったので、線が細くて頭でっかちのインテリなのかと勝手に思い込んで

おりました。

本人は長嶋茂雄氏に請われて立教大野球部に入部した筋金入りのアスリートです。

(のちに肘を壊して退部を余儀なくされたそうですが)

先日Y新聞に紫綬褒章がらみの記事が掲載されていましたが「小説は頭で書くの

ではなく、体で書くんだ」が自らの信念であるとのこと。

こういう方が書く小説なので行間からして気合や熱気が感じ取れ、惚れ込んで

しまいます。(ハイ、偏見は重々承知の上での意見です)

          ー    ー    -    -    -    -    -

「お父やんと・・」や伊集院氏のことを書きだしたら際限なく続きそうなので

本題に移ります。 

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《僕とニュー・ミュージックの時代 青春のJ盤アワー》  著者:泉麻人

知性派ブログ「雨降りとラジオの日々」を発信されているlequicheさんが半年

ほど前ブログ上で紹介していたのに感化されて当時さっそく購入して読み

進めてみたのです。

著者が雑誌で<青春のJ盤アワー>なるコラムを連載形式で執筆していたものを

まとめて出版した形の書籍ですが、紹介している曲とアーチストは本人が実家で

所蔵しているレコードに限っている点が面白く、しかもワタシは著者と年齢にして

3歳年下なだけなので殆どの部分に共感してしまいました。

かつ同書の中では1970年代当時の事象や風俗などにも触れているのですが

氏の実家はワタシの生まれ育った街であり現在も住んでいる所なので著書の中で

登場するいくつかの固有名詞はリアルタイムでワタシも知りえている先だから

痛快なんです。

例えばそのうちのひとつに「レコード目白堂」が登場し、美人店員さんがいたと

いうくだりがありますが、ワタシもこの店で子どもの頃よくレコードを買っていた

ので鮮明に記憶が蘇ったりしました(笑)

因みに取り上げたアーチストとコラムのタイトルです。

「ゆでめん」とシャボン玉/はっぴいえんど
アコースティックな讃美歌/GARO
DOWN TOWNの風景/シュガー・ベイブ
「築地の唄」と昭和レトロの夜明け/野沢享司
Gパンからの脱却/よしだたくろう
海とゴジラと若大将/加山雄三
1977年の港区サウンド/いしだあゆみ&ティン・パン・アレイ・ファミリー
垣根の木戸の鍵/荒井由実
哀愁の西早稲田通り/愛奴
中津川の語り部たち
ビューティフルなエンジェルベイビー/平山三紀
湘南道路の「砂の女」/鈴木 茂
マンザイブームとテクノポップス/ジューシィ・フルーツ
郊外電車の夏景色/サンズ・オブ・サン
そのときセリが流れていた/石川セリ
ナイアガラの時間/大滝詠一
ポパイ少年と「普通の女の子」/キャンディーズ
1978年のディスコクィーン/岩崎宏美
ウォークマン越しのTOKIO/イエロー・マジック・オーケストラ
午前3時の東京ららばい/中原理恵
パンチ・パンチ・パンチの夜/モコ・ビーバー・オリーブ
突発性ショーケン病/井上堯之バンド
ニートな春咲小紅/矢野顕子
ユーミンの前に漣健児がいた
飛んでチャクラマンダラ/庄野真代
リクルートカットの夏に/サザンオールスターズ
現象液のニオイののする部屋/吉田美奈子
葉山の合宿所の縁側で/大貫妙子
『バンドワゴン』GBS見物記/鈴木 茂げたものです。

泉氏はどうして何十年も前の細かなことをそこまでリアルかつ正確に記憶して

いるのだろうか、と感心してしまいます。

よってアラカン世代にとっては思春期から青春時代の情景が蘇ってくること

間違いなしだと思うのでおススメですね。

またそれより下の若い世代にとってはミステリアスに感じる部分が多いでしょう

から逆に興味をそそられるのではないかとも思います。

(lequicheさんの感想がそんな感じでした)

さてそんな泉麻人氏の著書でもう一冊おススメ

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     《青春の東京地図》  著者:泉麻人   

こちらもかなり古い出版になるのですが、上記「僕と・・」を知人に話したところ

逆に紹介を受けた著書です。

これぞ地元ローカルネタオンパレードで痛快の極み。

しかも泉氏の勇気を讃えたくなったのはこのイラスト。 

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本の中に登場するのですが、よくぞこのようなイラストを万人が目にする出版物

に掲載するなあ、と尊敬してしまいます。

しかし雰囲気としてはこれ以上にないものを醸し出しております。

このイラストの本文は著者が幼少のころ幼心にも不気味さを感じていたエリア

なのです。

著者は「シライシキソ」という言葉の響きが謎めいており、ぞくっと鳥肌が立つ

とまで記しているほどなのです。

前回で紹介した<ジャンクジャングルキッズ>に登場するイラストとは対極を

なして、逆にこちらの方がインパクトにおいては勝っているかも、ですね。

ということで明日(9日)で読書週間は終了しますが、最近めっきりと読書量が

減ったワタシにとって2回に渡り書籍紹介を行ったことで自分自身が触発されて、

伊集院氏や熊谷氏のそのほかの作品を読みたくなりました。

これも読書週間の効果の一端でしょうか(苦笑)

追記:読書週間内に記事が間に合ってよかったです。(間に合ったので載せましたw)


【読書週間】最近読んだおススメ本《ジャンクジャングルッズ》 [本]

今は読書週間の真っただ中です。

調べたら毎年10月27日~11月9日の2週間で、ちょうど11月3日(文化の日)

を挟んだ日にちとして制定されたそうで。

出版社や取次会社、書店、公共図書館から新聞・放送のマスコミ機関などが一丸と

なって何と今から70年近くも前の昭和22年にスタートされたとのことなので

由緒ある行事だと言えますね。

 さてワタシこと大変恥ずかしながら読書の量はかなり貧弱です。

ですが是非紹介したい本があるので今回はその話題について展開しようと

思います。よろしければお付き合いください。

読書量の乏しいモンが紹介する本なぞ信憑性や説得力に欠ける、とお思いに

なるかも知れませんが、反面読書にあまり熱心でない者でも嵌ってしまう作品

であるという見方もできるのではないかと考えます。

即ち小難しくないのでハードルも低く万人が楽しめるのではないかと。

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《ジャンクジャングルキッズ》 著者:町田 謙介 

小学6年男子の主人公が仲間2人と夏休みに偶然見つけた不法投棄場で

秘密基地を作り上げるのだがとんだハプニングでハラハラドキドキのクライ

マックス・・というストーリーなのですが、年齢層で50代以上の男子なら

多かれ少なかれ自己体験しているか、一度は憧れる遊びについての内容なので

きっと共感を持って読み進んでしまうと思います。

さながら米国映画「スタンドバイミー」の日本版という喩えが分かり易いかも。

あるいは邦画でたとえたら「ALWAYS三丁目の夕日」ワールドですね。

また個人的にツボだったのは「渡辺ジュースの素」という商品名が登場した箇所。

これは実在した商品です、50年前の記憶が鮮明に蘇りました。(笑)

昭和40年代に既に使用禁止となった「チクロ」なる人工甘味料で造られた粉末の

オレンジジュースなんですね。

3時のおやつになると封を切って渡辺ジュースの素をコップにざざ~っと入れる。

水道の蛇口をひねって水を出してコップに注ぐ。

(スプーンでなくあくまでも)さじで溶いてゴクンゴクンと飲む。

エノケン(榎本健一さん 喜劇役者)がCMで口づさむ「ホホイのホイともう

一杯・・♫」は今でもくっきりと憶えていますよ

(と思ってちょっと検索したらあるもんですね)

 さて脱線したので作品の話に戻します。

なぜこの本に出会ったかと言いますとワタシが毎月聴きに行っているライブの

ミュージシャンが書き下ろした作品なんですよ。

そう、著者の町田謙介さんはブルースシンガー兼ギタリストで、絵も大変上手

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これご本人直筆のイラストです。物語の中でしばしば登場します。こちらの

腕前もプロ級! 

ワタシのような読書初級者にとっては物語のキーになる場面でこのような

イラストが挟みこまれているのは非常に助かります。字面だけだと往々に

して場面を勘違いして読み込んでいることが少なくないものですから・・

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著者マチケンさんから直に購入したので裏表紙は(お決まり)著者の生サイン。

ということで本作品は少年期のワイルドでアドベンチャーなワールドに心酔して

しまう大変心地よい物語なのでワタシ的には文句なしの★★★★★評価です。

 -    -    -    -    -    -

さてせっかくの読書週間ということなので最近読んだものに限らず調子に乗って

もう少し古いおススメ作品なども紹介したいと思います。

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《邂逅の森》 著者:熊谷 達也

これは人気ブロガー<青山実花>さんが最近マタギ(クマの狩猟を生業と

する人)関連の映画を取り上げた記事を立て続けに投稿されたのを拝読した

ことがきっかけで10年以上も前に読んだマタギ小説を思い出したのです。

あらすじは明治から大正昭和にかけて、秋田の貧しいマタギの家に生まれた

主人公の波瀾万丈の人生を描いた物語ですが、非常に重厚な内容で全編に

渡り野性味がほとばしっています。

最近の定番となってしまった<草食系男子>の真逆を行く主人公の生き様に

久しく忘れられてしまった<男>否<雄(オス)>としての本能を思い起こ

させてくれるような、惚れ惚れしてしまう作品です。

性描写も結構露骨で、たとえば「夜這い」のシーンなんか主人公に乗り移った

気分でドキドキハラハラしてしまったりで・・・

《ジャンクジャングルキッズ》もそうですがこの《邂逅の森》は是非映画化

してほしいですね。

然らば主役は豊川悦司さんがイメージ的にぴったりなのではないかなどとまったく

勝手に想像したりしています。

さて次は・・・と行きたいところですが筆の乗りが悪くなってきたので次回

ということにさせていただきます。

(但し気ままブロガーなくせに一応旬な話題に拘っているため読書週間中に

アップできたら・・・ですね)