日大アメフト部元監督・コーチに読んでもらいたい《闘争の倫理ー大西鐡之祐・著》 [本]
とても痛ましいニュースです。
日大アメフト部選手が関学大選手に引き起こしたレイト・ヒット。
けがをされた関学大の選手には心よりお見舞いを申し上げますが、反則を犯した
日大選手の単独記者会見は痛々しくて見るに堪えなかったです。
私はアメフトについてはあまり詳しくないので語る資格などありませんが、同じ
フットボールとしてラグビーウォッチャーの立場から声を大にして申し上げたい
のは陳腐と言われるかもしれませんが「(ラグビー)フットボールは紳士のスポーツ」
なのです。
今回の出来事によりラグビーを含めフットボールが獰猛で危険なスポーツと印象付け
られてしまうのではないかと大変危惧しています。
そこでぜひとも紹介したい書籍があります。
闘争の倫理 ~スポーツの本源を問う:大西鐡之祐 鉄筆文庫
《・・スポーツのような闘争の場面で何かアンフェアな行動する前に「ちょっと待てよ」
とブレーキをかけることのできるような人間にする、そういう教育が重要ではないか
と考えるのである。私がスポーツにおける闘争を教育上一番重要視するのは、例えば
ラグビーで今この敵の頭を蹴っていったならば勝てるというような場合、ちょっと待て
それはきたないことだ、と二律背反の心の葛藤を自分でコントロールできること、これ
がスポーツの最高の教育的価値ではないかと考えるからである。こうした闘争における
心の葛藤をコントロールする訓練の積み重ねによって、こういうことを行ってはいけ
ないとか、行ってもよいという、判断によらないで、パッとその時瞬間に正しく行為
出来ることが重要ではないか、と考える。・・判断によらない判断以前の修練から
くる正しい行動。判断する材料とか、判断することを教えることはできるが、判断した
通りに行うということは、その場面、場面をあたえられた人間にしかできないのでは
ないか。だから人間が人間を教育する場合に一番肝腎なことは、双方の間に絶対的な
愛情と信頼があり、その時正しいと思うことを、死を賭しても断固として実行できる
意志と習性をつくり上げることだと言うことができよう》(P39~40)
《いかに科学的合理的に戦法や技術を組織づけても、それを行うプレイヤー達は生きた
人間であり、血が通っているのだということを忘れてはならないのです。最も重要な
ことは彼達の人間関係であり、チームワークであるということです。と同時に人間その
ものが持っている情緒的な事柄の解決をどうするかという問題があります。どうも人間
というものはそういう合理的な行動だけでは解決のできないものをたくさん持っている。
ましてや勝敗の場ではもっと重要なことがある。要するにそういう場で人間は非合理的
情緒的な行動を持っているということを初めて知るわけです。・・・われわれの非合理
的な行動のなかで、愛情の問題、危険とか生死とかについての問題、闘争に関する問題
緊急事態の時の問題などはどうしてもコントロールしにくいものです。しかもそういう
問題をわれわれは実際の社会のなかで合理的なものでは解決できない人間の本質の問題
として絶えず抱えているのです。それをコントロールしていく方法をわれわれは一つず
つゲームという経験を通じてスポーツから学ぶことが出来る。人間の持っている合理的
な行動と非合理的な行動という、二つのものをコントロールしていく力を育てるものが
スポーツのなかにある。》(P279~281)
《フェアが起る場合はですね、あるプレイ中に何らかの問題が起るわけですね。その時
それに見合う行動は、一つは良い行動であり、一つは悪い行動だと思うのですよ。その
時その人が考えることは。そういう時に、そういう悪い行動をしたら勝てるかも知れな
いという行動と。いや、そんなことまでして勝つ必要はない、という自分の正しい判断
と、それがここで葛藤する。そしてその時に愛情が湧くということは、その選択の根本
的なものは愛情だということではないでしょうか。その選択のどっちを選ぶか、二律
背反のどちらかを選ぶということは愛情だと。従ってフェアプレイの根本には愛情が
ある。ということになりますね。》(P593~594)
以上すべて本書の一部を抜粋したものです。
著者の大西鐡之祐(1916-1995)はラグビー日本代表元監督、早稲田大学元教授の経歴を
有した人物ですが個人的には崇高な哲学者だと感じます。
氏が他のスポーツ指導者や学者との決定的な相違は生死がかかった戦争体験に裏打ちされ
ている点です。
太平洋戦争においてスマトラで捕虜となり九死に一生を得て帰還した体験から闘争の倫理
を育んで世界から戦争を排除する、というのが本書の主眼です。
因みに氏が監督として指揮をした試合における功績は枚挙にいとまがありませんが1968
年の対オールブラックスジュニア戦勝利(23-19)や1971年のイングランド戦の惜敗
(3-6、19-27)などの名勝負を繰り広げたことからマスコミでは「大西魔術」と評されま
した。
伝説のラグビードラマ「スクールウォーズ」で登場の<大北達之助>のモデルになった
人物といえばピンとくる方もいるのではないでしょうか・・
さて今回の日大元監督・コーチの行動や態度は痛烈な世間の批判を浴びてしまいました
が、是非本書を熟読されて心を入れ替え一から出直して戴きたいものです。
また反則を犯し退場処分となってしまった選手は会見で「もうアメフトは続けません」と
発言されておりましたが、やはり一度本書を読まれて「フェアプレイ」について自ら学ば
れ心機一転カムバックされることを期待します。
(5月30日 追記)こんなコラム記事も出されていますね。→https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180529-00010000-rugbyrp-spo